【2】波と音とシンセサイザ

 

【音源とは】

シンセサイザは英語で synthesizer と書きます.そして,synthesis とは日本語で合成,統合という意味があります.つまり,シンセサイザは色々な波を合成するんだよ,という意味が込められています.

では波を合成するとどうなるんでしょうか? 第1回目の「波とFMの仕組み」で説明したとおり,波を重ね合わせることで複雑な波を作り出すことができます.この波は基本的に高校の数学で学ぶ sin という関数を使うことまでを説明しました.つまり,基本的な波を Asin θ とすると複雑な波は

(Asin θ) + (Asin θ') + (Asin θ'') + ・・・ + (Asin θ'''・・・''')

で表現できるわけです.

では,シンセサイザでよく聞くのこぎり波や矩形(くけい)波,三角波はどんな波でできているのかですよね.

まずは図1と図2を見てください.図1はのこぎり波,図2には矩形波です.この波は実は沢山の波を合成しただけに過ぎません.沢山の波というのは図3のような大きな波から,小さな波のことです.図3の波を全部足すと図1ののこぎり波が,1つおきに足すと図2の矩形波ができます.これらはエクセルなどのような表計算ソフトウェアですぐに確認することができます.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ちなみに2つの波を数式で表現すると,のこぎり波は

(Asin θ) + (A/2sin θ/2) + (A/3sin θ/3) + ・・・ + (A/2nsin θ/2n)

となり,矩形波は

(Asin θ) + (A/3sin θ/2) + (A/5sin θ/3) + ・・・ + (A/(2n+1)sin θ/(2n+1))

となります.今回図1から図3は1から20までの波しか扱っていませんので,図1,図2の波は少し歪んでいますが,もっと沢山の波を重ね合わせれば,もっと綺麗なのこぎり波や矩形波ができます.

さて,シンセサイザでよくみるのこぎり波,矩形波は色々な波の合成ということがわかりました.

となると,これらの波があるということ自体,逆に考えると非常に沢山の波が重なっているということになります.そこで,発想を逆転してみます.つまり,のこぎり波から不要な波をとれば,違う波ができるんじゃないの? 例えば,のこぎり波から偶数の係数の波をとれば,矩形波ができるんじゃないの? この波を取るというのがフィルタということになります.フィルタは日本語では濾過器と書き,不要なものを取るという役目をします.つまり,図4のように偶数の波を取るフィルタを作ることができれば,そこから矩形波ができるというわけです.

 

 

 

 

 

 

 

 


専門用語でははこれを「減算方式」と呼んでいます.ちなみに,波を足していく方法は「加算方式」と呼ばれています.

さて,図3をもう一度見てみましょう.図3の波はある周期をもっていることが分ります.実際の音は色々な周波数でできていますので,こののこぎり波の周波数を変えると図3の波の周期も変わることになります.そして必要な波だけを取り出してこれを音源とするわけです.その音源を色々と重ね合わせる,つまり加算することでさらに複雑な音を作り上げていくことになります.

 

【フィルタ】

シンセサイザの音源は「減算方式」が使われ,そのためにフィルタが用いられています.では,このフィルタとは何でしょうか?【1】でも説明したように,波は周波数で表現することができます.つまり,周波数は時間の逆数で計算することができるわけです.周期が100m秒の波は,1/100(msec)=10Hz と表現できます.よって,一般的に波は周波数のHz(ヘルツ)で表現することが多いわけです.

さて,フィルタはある特定の周波数の波を通過させない,または,通過させるという機能を持っています.図5のフィルタは1KHz以上の周波数の波を通過させない,つまり,切り捨ててしまうというものです.逆に図6のフィルタは1KHz以下の周波数を切り捨てるものです.この図5のフィルタを低域通過フィルタ(LowPass Filter),図6のフィルタを高域通過フィルタ(High Pass Filter) と呼びます.この2つのフィルタを組み合わせることで色々なフィルタを作ることができます.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


図7はある特定の周波数だけを取り出す帯域通過フィルタ (Band Pass Filter),図8はある特定の周波数だけを切り捨てるノッチフィルタ (notch filter) です.

例えば,ある波を低域通過フィルタ,または高域通過フィルタと通すと,図9のように低域通過フィルタの場合には大きな波が現れ,高域通過フィルタを通すと細かい波が現れます.そして,色々なフィルタを組み合わせることで,必要な周波数の波を取り出すことができます.そして,のこぎり波や矩形波自体の周波数を色々と変えることでさらに色々な音を作り出すことができます.イメージとしては図10のような感じでしょうか.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


このように減算方式を使った最近のシンセサイザはフィルタを色々と重ねあわせることで,色々な音を作り出します.加算方式は基本となる sin 関数の波を沢山持つ必要がありますが,減算方式では基本となるのこぎり波,矩形波,三角波を持つだけで良く,あとはその波の周期を変えることで色々な波を持つのと同様な意味合いを持つことになるわけです.

最近ではフィルタの計算はデジタル信号処理専用のLSI(大規模集積回路)によって非常に高速に,また簡易的にできますので,10年前のシンセサイザより高機能なのに価格が非常に安いというシンセサイザが出てきているわけです.このデジタル信号処理用のLSIにはDSP(デジタルシグナルプロセッサ)も含まれ,最近のDSPは非常に高速に種々の演算をすることができるようになってきています.まぁ,これは別のお話なので,興味のある人は大学とかで勉強をしてみてください.

このように沢山のフィルタの設定ができるということは,沢山の音色を作り出すことができるとうことと同じですので,どれだけのフィルタを持つことができるかというのが最近のシンセサイザを選ぶ一つの指標なのかもしれません.